【記者魂29】株価上昇で感じたこと

株価が上がることは日本経済にとって喜ばしいことである。一部で言われるような「お金持ちだけが潤う」「格差社会が進む」などといった、左翼的な考え方に関してはこの際、相手にするつもりはまったくない。株価の変動は、その国の富を示すバロメーターであり、株価の上昇は日本が資本主義国家である以上、良いことであるのは疑いの余地がないのだ。今日の東京株式市場では日経平均が3日ぶりに反発。東証1部の売買代金は2兆円に迫り、活況ぶりからは、なお上値余地を感じさせるとみていい。

さて、昨今の株価上昇の背景について、自分なりに解釈してみる。日経平均、TOPIXともにチャートを見れば明らかなのだが、マーケットに転機が訪れたのは昨年11月14日。翌15日から適度な休養を挟みながら、理想的な下値切り上げ型の上昇波動を今日まで描いてきたことが理解できそうだ。転換日に起きた出来事と言えば、野田首相(当時)と安倍自民党総裁の党首会談。ここで野田氏は2日後の16日に解散することを示唆し、実際に解散、総選挙、その結果を受けた安倍政権誕生を経て、株価は上がり続けているのである。

これらの事象をわかりやすく記せば、解散が現実になった時点で市場は政権交代、その後行われるであろう経済対策を織り込んだのは言うまでもない。民主党政権時代の「分配重視」から新政権の「成長重視」を嗅ぎ取ったのだ。各論を整理すると・・・。

・解散前に提出された国土強靭化基本法が示すように公共工事が拡大する
・思い切った金融緩和で資産効果が見込める一方、円高に歯止めがかかる
・自民党の公約にある物価目標(2%)設定でデフレ脱却に向け前進する

ざっと、市場が“期待した”ことを記したが、これらの施策をアベノミクスと称し、好感してきたのがこれまでの市場の動きだった。自分の政治的な立ち位置を横において論じると、確かに、これらが実行されれば株価は上昇する。

まず、公共事業に関して言えば、相場の歴史をひも解くと、90年代から過去に行われた公共事業を軸とした大型景気対策が実行された直後、ほぼ株価は上昇していた。文字通り政府が”バラ撒く”のであるから、景気が上向くのは当たり前。功罪を問わず、目先の株価を上昇させるには手っ取り早い手段と見みても差し支えない。

2番目の思い切った金融緩和。これについては異論を挟む余地はなさそうだ。金利と株価については難しく考えず、教科書通り単純に判断した方がいい。これも功罪を問わなければ、ジャブジャブの余剰資金が市場に流入し、株価を押し上げよう。むろん、これはバブルを引き起こす要因にもなる。80年代後半の土地バブル、ITバブル、リーマンショック以前の新興国バブルを思い出して欲しい。今までも低金利だったのに株価は上がらなかったが・・・そう、株価を押し上げるには緩和が足りなかったのだ。株価が低迷している時に、引き締め策を取る国など世界中どこにもない。

一方、欧州危機以降、世界的に景気に対する不安が高まり、主要国の“緩和合戦”とも言える状況の中で、相対的に思い切った緩和策を取れば、良い悪いは別にして円は売られる。実際、為替マーケットでは長く続いたドル安/円高にピリオドを打ち、それが時価総額の大きな輸出型企業の採算好転を期待させ、全体の株価上昇に寄与した。

3番目の物価目標の設定。デフレだから、これまで企業は投資を控え、お金の流れが詰まっていた。人為的であっても、インフレが読めるようになれば、持っていたままではお金の価値が目減りするため、実物に変えようとする動きが活発化する。インフレ心理が働くからこそ、人々はお金を使うようになるのだ。インフレはお金の価値が下がり、デフレはモノの価値が下がる・・・これも社会科の教科書通りと言える。

以上が、筆者のみならず、マーケット関係者の多くが思っている最近の株価上昇の背景だが、果たして、このまま施策を続けた場合、後に起きうることに関して不安に思う向きも少なくないだろう。民主党政権時代の無策、さらには分配重視のスタンスが株価低迷に関わっていたこととの比較では良いとも思えるものの、長い目でみた日本の将来を考えると、果たして良いものかどうか・・・。

過去の公共事業主体の景気対策は、1~2年のスパンでは株価上昇に寄与したしていた。しかし、それで“失われた20年”から完全に脱出できなかったのは、これまでの経緯をみても明らかな。逆に、公共事業に頼らなかった小泉改革時に上昇したケースもある。むしろ、財政悪化というツケを今に残した点を忘れてはならないだろう。

この財政悪化、ここはどんな政権が誕生しても最も難解な点になると思われるが、安倍政権が放漫財政とマーケットが捉え、攻撃するようなことがあれば、国債への信認が低下し長期金利が上昇するリスクが生じる。日本経済の再浮揚と、財政健全化の方針を両立させる・・・まずは、財政健全化目標らしきものを示さなければ、アベノミクスそのものが破たんするリスクを孕む。

筆者は公共事業そのものを否定する訳ではないが、事業は必要不可欠なものだけに絞り込み、より効率的に行うべきだろう。また、思い切った規制緩和を実施し、ニュービジネスが育つような環境づくり。さらには、政府の無駄を省き、民間でできることは民間にまかせ、財政の負担を軽減する努力も合わせて務めるべきと考えている。最後は、党人として手前味噌のように論じたが、今のままでは不安が消えない。

新政権が、成長重視に舵を取ったことは良いと思うものの、その方法論は少し考えた方がいい・・・これが、最近の株価上昇から筆者が感じた点である。