本当にあった話です。地元に伝わる、戦争末期の悲惨な話━━終戦直前、数百頭の馬が「ガス壊疽」の血清を作るために、生きたまますべての血を抜かれたのです。
ガス壊疽とは、戦場で多くみられた筋肉などが壊死する細菌感染症の一種ですが、本土決戦が起きた場合、大勢が罹患しないとも限りません。そのため、当時、中山競馬場に疎開していた陸軍軍医学校でに「本土決戦に備え10万リットルのガス壊疽血清を製造せよ」という命令が下されました。この命令のために、たくさんの馬が殺され、その手伝いをさせられた、12~13歳の勤労動員学生が辛い思いをしたのです。
集められた馬は、まず、ガス壊疽菌の注射を打し、抗体ができ次第、順次、採血していきます。馬も貴重な資源のため、一度に抜いてしまうことはありません。少しずつ抜き、弱ったところで全採血に━━その作業を行った経験がある当時勤労動員学生だった佐野より子さんは、作業について「男子が馬の4本の脚を縛って横倒しにし、軍医が頚動脈を切ってT字管を挿入、女子はシリンダーに血を流みました」と証言しています。
そして1滴でも無駄にできないということで「男子が馬の上で飛び跳ね、踏みつけて血を絞り出した」とか。もちろん、軍の命令に逆らうことなどできず、嫌とはとても言えませんでした。佐野さんは、「こうして作られた血清がどのくらい役立ったのか、また、本当に戦地に送られたのかはわからず、今でも疑問に思っています」とした上で「若い人たちに、絶対にこんなことをさせたくない」と話してました。
そして、隔年で行われている市川市民ミュージカルにて、この話をもとにした「夏の光2016」が上演されます。9月4日(日)11時~と15時からの2回。場所は、市川文化会館大ホールです。
実を言うと、この15時~の部は、私が主役として出演することになりました。これまで、このミュージカルのほか、かつて軍都だった市川に残された数少ない戦時遺産である赤レンガ建造物の保存運動に関わってきましたが、自分が表現することによって、こうした風化させてはならない“事実”を伝えることができる━━貴重な機会だと思っています。