先週、歌舞伎座のこけら落としのニュースが話題となって以来、世間の歌舞伎に対する関心が高まっているようである。昨日は安倍総理が鑑賞、その後記者団に対して「歌舞伎はまさにクールジャパン」と言ったとか。日本を海外に売り込む貴重な資源として、歌舞伎は今回のこけら落としをきっかけに、再認識されそうな状況だ。
千葉県の森田健作知事も議会においてIR誘致に関し答弁した際、歌舞伎など日本の古典芸能は目玉となるコンテンツになると指摘したことがある。海外から観光客誘致を考える場合、「これぞ日本」と認知されている1つであることは確かだろう。
実際、ユネスコの世界無形文化遺産に登録されている歌舞伎は海外でも人気が高い。公演を行った場所で日本語を学ぶ人が増えたとの話も聞く。「日本の伝統芸」を世界でも愛されるように役者や興行関係者は、これまで海外での公演を幾度となく行ってきたが、それが日本のイメージ向上に繋がっているのである。
記者時代、歌舞伎の興業を一手に引き受けている松竹を何度が取材したことがあった。そこで幹部に伺った話の中で、印象に残っているのは「世界にある伝統芸能の大半は、国や貴族などパトロンの援助で成り立っているのに対し、歌舞伎は一民間企業である松竹が支えている」といった点である。
歴史的にみても出雲阿国(いずものおくに)のころから約400年間、江戸幕府、明治政府、そして戦後の歴代政権が歌舞伎をサポートしたことはない。同じく、興行主だった松竹が採算に難があって手放した文楽が、橋下大阪市長とのバトルで注目されたように、行政の支援を受けているのとは異なる。
伝統芸能とビジネスを単純に比較できないものの、行政から自立した形で、“経営”を成り立たせているのみならず、海外に向けて”日本のイメージ向上”の一役を担っている点を見逃してはならない。一国の宰相をして「まさにクールジャパン」と言わしめた事実を注目すべきである。
一方、産業界に目を向けると、国内では行政の関与度が高いビジネスが少なくない。こうした歌舞伎の例や、厳しい国際競争力を勝ち抜き日本のプレゼンス向上に貢献する企業があることを考えると、行政に甘える企業が堂々と存在することに疑問に思うのは筆者だけだろうか。
民間の努力でここまでやれる例がある・・・歌舞伎座のこけら落としのニュースに接して、改めてそう思った。高い技術力で世界に売り込む日本発の製品、「クールジャパン」では世界で共感されるアニメ・・・等々、その価値が認められれば、歌舞伎のように世界で受け入られ、日本の発展に貢献することを忘れてはならないだろう。