3日に東京都立総合芸術高等学校を視察しました。芸術科の学校というと、美術と音楽の併設が連想されますが、同校はこの2科に加え、舞台表現科が設置されているのが特徴。私の政策課題の1つに、芸術分野における舞台芸術のプレゼンス向上があり、将来的に千葉県の県立高校にも舞台芸術関係の学科を設置すべきと考えているため、その点を踏まえて今回、同校を視察したのです。
千葉県にある県立高校では、美術、音楽を専門的に学ぶことができる高校があるものの、演劇やダンス、日舞、クラシックバレエといった舞台系芸術を学ぶ学科を設置している学校はありません。首都圏では、東京都立総合芸術学校のほか、埼玉県立芸術総合高等学校(美術科、音楽科、映像芸術科、舞台芸術科を設置)があります。
残念ながら、これらの学校は住民の税金で運営されているために、千葉県民は通うことができず、どうしても通いたい・・才能に恵まれ、かつ熱意がある子どもは、家族で移住してまで進学を目指す例も少なくないとか。見方によれば、千葉に光り輝く逸材が居ても、環境を求めるがために、県外に流出してしまうことになるのです。
県の施策を見ても、政策的な支援は美術系、音楽系が厚くなっているのが現実ではないでしょうか。これは、千葉に限ったことではなく、全国的な傾向。以前、進学と芸術の両方に力を注ぎ実績を挙げている沖縄県立開邦高等学校を視察した際、教頭先生が芸術分野に関して、美術、音楽に比べて舞台関係のサポートが弱いと語っていました。
たとえば、クラシックバレエの分野では、今年、バレエの登竜門とも言えるローザンヌ国際バレエコンクールで1、2位を日本人が独占したとのニュースがありました。一昨年も日本人が1位になるなど、日本のバレエは世界的にもレベルが高いという事実があります。プロを目指すだけではなく、趣味として楽しむ人まで広げれば、舞台芸術を楽しんでいる方も多いのですから、この分野にも、もっと目を向けるべきではないでしょうか。こうした点を踏まえ、県立高校に舞台芸術系学科の新設を訴えかけます。
さて、東京都立総合芸術高校ですが、以上の点から舞台芸術関係に絞って記述することにしました。
同校は平成22年(2010年)に第1期生168名で開校。それまでの東京都立芸術高校を発展的に解消する形で設立されました。教育目標は「音楽・美術・映像・演劇・舞踏等の芸術に関する専門教育を行うことによって、我が国の芸術文化の様々な分野を支えていく人材を育成し、国内外での芸術文化活動を通じた社会貢献ができる心豊かな人間の育成を図る」と、設置学科は、芸術科(美術科、舞台表現科、音楽科)。約500名が学んでいます。
平成20年の開設準備室設立から関わった佐藤清親初代校長によると、基本構想から開校まで10年の年月を要したとか。とりわけ難しかったのは、舞台表現科についての教員確保などソフト面の態勢作りで、音楽や美術については前進の芸術高校のノウハウがあったものの、舞台表現は一から模索しなければなりません。実は、千葉県の関係者とも、勉強会において舞台関係の学科設置に関して話したところ、この部分から設置が難しいとの答えが返ってきました。
教員の確保については、各分野においてキーマンを置くことからスタート。それぞれの分野の超一流とされる人に声を掛けたところ、幸い、趣旨に賛同して請け負ってくれたそうです。たとえば、演劇では文学座、バレエでは牧阿佐美バレヱ団、日本舞踊では花柳流・・これらがバックアップしています。牧阿佐美バレヱ団の牧阿佐美さん、演劇評論家の扇田昭彦さん、コンテンポラリーダンスの大家でお茶の水女子大学名誉教授の片岡康子さんなど著名人を中心にして、講師が広がりました。花柳流からは家元が推挙した人が講師として派遣されているそうです。
これら講師の方は、東京都の制度である「市民講師」という肩書で授業を行っています。この制度は、講師確保という難問に対するベストアンサーと言えるかもしれません。大勢の一流の先生から学べるメリットが大きいのは言うまでもありませんが、舞台に限らず美術、音楽においても、1人の技術、芸風に偏ることなく、複数の大家から吸収し自己の技術、芸風を育んでいく・・そうしたメリットもあります。また、コストの面で言えば、市民講師の予算に年間2500万円計上していますが、この額で雇える専任の教員は4人。同じコストで100人の一流どころを講師と呼ぶことができるのです。
公立でそこまでやる必要があるのか、という意見もあるかもしれません。私立に通えばいいではないか、といった考えもあるでしょう。しかし、経済的な事情で才能を埋もれさせないというのは当然のこととして、私立では家元など流派でしがらみができてしまい、学ぶ内容が偏るリスクが生じやすくなりますが、公立だからこそセクト主義を排除できる・・その点でも意味が大きいでしょう。
視察に行った際、舞台表現科では、クラシックバレエ、コンテンポラリーダンス、演劇の授業をしていて、いずれも参観させて頂きました(残念ながら撮影禁止で写真はありません)。生徒たちは熱心に取り組んでいましたが、いずれの授業も専門家であるプロが細かなアドバイスをしており、とても良い環境で学んでいるとの印象を受けます。教室も、かつて敷地内にあった工業高校の武道館をリニューアル。その際には、床などハード面に関して専門家の指導によって施されました。
授業風景は実践そのもので、ここから舞台表現のみならず、美術、音楽も含め、将来の巨匠が育つとの感想を抱きました。全国各地から保護者の方と移住して、同校を目指す生徒もいるとか。残念と言っていいのでしょうけど、千葉からも”才能ある生徒”が来るそうです。それゆえに、生徒のレベルも高く、自信を失ってしまう生徒も居ない訳ではありません。そうした生徒のために、カウンセリングの態勢も充実させました。
クラシックバレエでローザンヌの例を先述しましたが、たとえば日本のバレエは「レベルが高いのに、何で教育のためのインフラが乏しいのか」といった声が海外から聞かれます。バレエは“習いごと”で終わってしまうのが日本における現実。中学校までの習いごとで事実上、止まってしまうのを、教育課程としっかりしたものにする公的な認識が必要・・そう感じます。
授業をしていた片岡先生にお話を直接伺うことができましたが、今後、千葉県立高校で取り組みが実現した場合の協力をお願いしたところ「千葉でも頑張って、こうした教育の場を作って下さい」と励まされました。
千葉では、今年3月に「県立学校改革推進プラン」の第2次実施プログラムが公表されました。そこには、話題には上りながらも、舞台系芸術の学科設置に関しての記述はありません。実現への道のりは遠く、県の財政状況を踏まえると困難が想定されるものの、まずは第3次のプログラムにおいて、検討課題として取り上げられるよう、努力して参ります。
最後に、授業参観のほか丁寧な対応して頂いた佐藤校長、お話頂いた片岡先生に、この場を借り、改めて御礼申し上げます。