※以下のコラムがハフィントンポストに掲載されました。
少し前、安保法案について与野党が激しく対立していた最中に行われた山形市長選挙を思い出して欲しい。選挙戦の争点として、野党側候補は安保法制を、与党側候補は地元の諸問題をそれぞれ掲げ、噛みあわないまま投票日を迎えた。今のままでは、おそらく来年行われる参議院選挙も同じようになると想定できる。
野党側は、参院選を有利に戦うために、国民が支持していないとして可決した一連の安保法を争点に持ち出すだろう。それを象徴するのが、注目された共産党による「戦争法(安保法制)廃止の国民連合政府」の実現の呼びかけだ。安保法制を軸に、選挙協力等を推し進めようとするものである。
政治に緊張感が生まれるという意味では、歓迎していいかもしれない。安保が選挙戦の争点になるのであれば、連合政府を目指すメニューは受け入れる層が増えそうな感じもする。安保法制に賛成、反対──実にわかりやすい。ただし、これは来年の夏ごろ、他に目立った争点や国民生活を揺るがすような問題が起きていないことに限ってのことだ。
最近の情勢を考えると、中国の景気悪化から、先行き日本経済も大きなダメージを受けることが予想される。リーマンショックの時のようにクラッシュでも起きれば、なおさらであろう。論戦の軸が再び経済・景気に移ることは想像に難くなく、その時に”国民連合政府”の位置づけがどうなるか。一気に”野合”と化すのではないだろうか。
呼びかけ先の1つである民主党は、過去にハフィントンポストへ枝野幹事長が「公的介護や公的保育の拡充など、社会保障関連費の抑制方針を改め、公共事業予算などを振り替えてきました」と記した”エダノミクス”を投稿したことからも、議論の余地があると思われる。それで党内がまとまるならいいが、自由主義、市場主義を掲げる方も多い中では、これらと立場が真逆の共産党と組むことに党内の意見が集約できるとは考えにくい。”小さな政府”を前面に掲げた旧みんなの党のメンバーが多い維新の党はなおさらだ。
仮に、中国がクラッシュした場合、この連合体が経済対策について、意見がまとまるとは思えない。安保法制での勢力結集は良いとしても、経済に関して水と油の勢力がまとまるはずがないだろう。これで、まとまるとしたら、完全に選挙を勝つためだけの、野合と言わざるを得ない。
ゆえに、経済が争点になった場合、このまま結集に向かったとしても野党側は安保法制を、あくまでも争点に据えることは容易に想像できる。他方、与党側は当然のことながら、自身に不利になるため、それには乗らずに経済を前面に打ち出して戦うことになるだろう。中国の経済が幸いにも持ち直し、国民が経済に対して不安を抱かない状態になった場合でも、昨年末の総選挙のようにアベノミクスの成否を問う格好になるのではないか。
参議院選挙に向けて、双方のカギを握るのは中国経済だ。私は今まで、これは政局の材料にはならないと思っていたが、今後、大きなポイントになる可能性が出てきたと感じている。中国経済に関しては、現政権もアベノミクスの成否がかかる一方、野党側にとっても、中国がクラッシュしてリーマンショックの時のように日本が大不況となれば、国民の関心は安保から経済に移るので、いずれも中国の小康状態を望んでいると思う。
以上のことから、来年の参議院選挙は今のままだと、”野合隠し”のために、中国発の不況となった場合「アベノミクスがいけない」と連呼しつつも、最大の争点を安保法制に据えると予想できる。対する与党側は、あくまでも経済を前面に打ち出すことになるだろう。議論が噛みあうことなく、争点は「争点は何かを問う」といったような不毛な選挙になることが危惧される。