JGBウォッチャーというのは、よくも細かい変化に気づくものだと感心させられた。かつて経済記者だった時代、かりに国債を担当していたとしても、私は気付かなかったかもしれない。これが国債価格に影響するかどうかはわからないながら、国民の貴重な資産に関わる問題でもあるので、拡散する意味も込めてこのブログでも取り上げることにする。
財務省のホームページをみると、「よくあるご質問」というコーナーがあるが、その中にある「日本が財政危機に陥った場合、国債はどうなりますか」という質問の回答が最近になって差し替えられた。
これまでの回答は「国債は政府が責任を持って償還いたしますので、ご安心ください」・・・。ギリシャの財政破たんなどを受け「借金大国の日本が大丈夫か?」と心配する風潮も出ていたが、財務省としては、この回答を読む限り、国債について「財政が悪化しても、ちゃんとお金は返しますので、心配しないでね」と語りかける格好となっている。
行間からは「なので、国債は買っても大丈夫」と読み取ることもできるだろう。個人向けにも国債を積極的に販売しているので、まずはセールストークのごとく、お得意様である国民、なかんずく個人投資家を安心させようとした訳だ。そりゃそうである。ペイオフにより預金が全額保証されなくなっている現在、国債はリスクテイクを嫌う向きにとって、ラストリゾートも言える存在であり、安心安全が買う人の拠り所になるのは言うまでもない。
ところが、ごく最近、この回答が「仮に財政危機に陥り、国が信認を失えば、金利の大幅な上昇に伴い国債価額が下落し、家計や企業にも影響を与えるとともに、国の円滑な資金調達が困難になり、政府による様々な支払いに支障が生じるおそれがあります。 そうした事態を招かないよう、財政規律を維持し、財政健全化に努めていく必要があります」に差し替えられたのだ。
「安心して下さい」から「支払いに支障が生じるおそれがあります」・・・この変化はとてつもなく大きい。喩えてみれば、政府が自らの格付けを「AAA(トリプルA)」から2段階、或いは3段階も引き下げたようなものなのである。
好意的にみると、金融商品に関するセールスに対して詳細な説明が求められる現在、「ご安心下さい」という、客観情勢から何ら確証がなく、いい加減とも言える文言を、自らの襟を正すがごとく改めたと解釈することもできる。考えてみれば、地方自治体や企業などの起債、或いは、金融機関が投信などの商品を販売する場合、差し替えられる前の「ご安心下さい」の回答では世に通用しないだろう。
しかし、今回の回答差し替え、それだけが目的ではないと思えてならない。ウラに増税に向けての準備の意味が込められているのではないか・・・と感じるのである。そう思うのは回答の後段に「そうした事態を招かないよう、財政規律を維持し、財政健全化に努めていく必要があります」とあるためだ。
よく読めば、質問は「国債はどうなるのか」が主題であるため、財政危機への対応のくだりは蛇足と言えなくもない。穿った見方をすれば、「財政が悪化すると、今まで買った国債について、お金が戻らなくなるかもしれなよ。そうならないためには財政を良くしなきゃならない」と強調した格好、その上で行間からは「そのためには消費税率のアップがどうしても必要なんだ」と読み取ることができる。
もっと、深読みをすれば、安心安全を謳わないことで個人向けの国債販売が減ってしまう可能性もあるものの、その不足分は、きっちり増税による税収増で賄えるから大丈夫・・・といったところになるだろう。
なぜ、この時期に、回答を差し替えたのか真意はわからないし、これを問い合わせても、「いやいや、消費税率をアップするつもりなんでね。それに対応するためですよ」などという返答があるはずもない。
欧州危機が深刻化した時期などでの差し替えならば、まだわかる。しかし、金融情勢が比較的落ち着いている現時点では不自然極まりない。やはり、これは消費税率アップをにらみ、準備を着々と進めているのを象徴する出来事・・・財務省は小賢しいと感じるのは私だけだろうか。