県立東金病院視察

本日は、県立東金病院に視察に行ってきました。今回はその報告です。

同病院は、平成25年度末に廃止になることが決定しています。山武長生夷隅地区では、三次救急医療施設がなく、それを確立するための具体策として同病院を廃止する一方、新たに東金九十九里医療センターを整備。同センターは地方独立行政法人として運営され、効率的な医療サービスが提供される上に、地域の念願である救急医療が充実することになります。

お話を聞いた平井愛山院長によると、実際、この地域の重症患者は現在、他の地域に搬送しているとか。そうした意味において、同センターの建設は意味が大きいものがあります。

もっとも、新病院の場所が不便である点などから、住民の間でこの“移管”に反対する声も出ています。今、“移管”という言葉を使用しましたが、これは単なる建替えではなく、まったく別の運営体制となることから、正確にはその言葉は適切ではありません。そこから、従来、住民が親しんできた医療サービスが継続されるのか・・・そんな不安も出ています。

さらに、話を聞いて心配に思ったのは、東金病院が現在、力を注いでいる「慢性化疾患の重症化予防」・・・これが途絶えてしまわないか、という点です。

「慢性化疾患の重症化予防」とは、たとえば、心筋梗塞など重い循環器系の病気を発症した患者の多くは、糖尿病などを疾患しているため、それら重篤な病気にかかりそうな慢性疾患の患者を重症化させない・・・簡単に言えば、今、病気になっている人を重症にさせないために、あらかじめ予防してしまおう、とする試みです。

これは、市町村の国保財政崩壊という医療財政危機に対応する意味でも見逃せません。というのも、心筋梗塞、人工透析など、慢性疾患から症状が重症となった場合、そうでない場合との比較で格段に医療コストがかかるため、医療費を抑制する意味でも、この施策は有用なのです。もちろん、一番いいのは、病気にならないことですけど、病気にかかっても、重症にならなければ、それだけ医療費がかからず、その分、国保からの充当額が少なくなるのは言うまでもないでしょう。

なぜ、こうした予防が、健康上の話だけではなく医療費を語る上でも大切なのか・・・平山院長にわかりやすく解説して頂きました。たとえば、糖尿病患者は直近20年で3倍増となりましたが、この患者が重症化するまでには数年から十数年のタイムラグが生じます。つまり、今後、医療コストがかかる虚血性心臓病患者や人工透析が必要な患者が加速度的に増えることが想定され、方や、保険を支える現役世代は高齢化進展の中で減少するため、地域医療が財政面で危機的な状態に陥る・・・というのです。

県東地域に比べて医療に関して深刻度が低い、地元の市川をはじめ県西部は、今後、加速度的に高齢化が進む上、慢性疾患の患者が多いとみられることから、重症化予防を真剣に考えないと、近い将来医療費問題で大変なことになる・・・平山院長は警告を発していました。

そうした意味において、東金病院で培ったノウハウ、10年がかりで作り上げたというチーム・・・これらは、千葉県の医療行政において、私は貴重な“資源”と直感しました。廃院後も、これを何らかの形で維持しなければならないでしょう。

別の運営体である新センターに、そのまま移管にはならない・・・可能性が高いのですが、幸い、チームは県職員・・・県の他の医療機関に移動させ、そこでこの施策をプロジェクトとして継続させる・・・これが現実的と考えられ、私もそうなるようサポートしたいと思いました。

地元については、広域電子カルテ事業「わかしお医療ネットワーク」という事業を進め、地域の医療機関と慢性疾患の重症化を取り組んでいますが、その哲学はこれら各病院、医院に浸透しており、平山院長によれば、地域の機関によって引き継がれるため、東金病院が去った後でも、この点で迷惑をかけることはないとのことでした。

正直なところ、訪れる前の事前の勉強段階で、廃院となる病院が、これほど熱いハートで取り組んでいるとは思いませんでした。地域の公的医療機関はこうれなければ・・・と思った次第です。また、救急医療の在り方を学ぶつもりでしたが、その取り組から、財政に関わる医療の問題を学び取ることができ、平山院長に感謝しました。この場を借り、院長並びに案内して頂いたスタッフの方に、改めて、御礼を申し上げます。

病院内を見学しましたけど、かつては191床の規模を誇った同病院も、医師不足などで縮小してしまい、今は60床規模、施設の老朽化も進み、単に院内を見ただけでは、この病院の本質的な部分に気が付くことはありません。貴重な千葉県の“医療資源”を守りたいと感じた1日でした。